EVE Report Vol.03

2000/12/27 @578(21:52)

 

無限の挑戦、有限の努力

前回はEVEにおいて私というフィルターを通した5つの価値をコンテンツとして提供していることを述べたが、今回はEVEのもう一つの要素、ヴァリュエイブルリンクス(以下、Vリンク)から話を進めたい。

インターネットの可能性であると同時に困難さでもあるのが内包する情報過多という点だが、私はそれを価値あるものにすべく、EVE内でインターネットのWWW機能の中核をなすハイパーリンクを積極的に使うことを考えた。つまりEVEでは生み出せないと判断した価値については、その代替となるべくサイトが必然的に存在するわけで、そこへの道標的な存在としてリンクを付けることにした。これがVリンクである。

例えばCS Streetでは、衛星放送に詳しい(と私が判断した)サイトにVリンクを付けている。これらのサイトにはEVEが足元にも及ばない充実した内容が含まれている。反対にEVEには私が必要だと思う情報しか載せていない。だからもっと詳しく知りたい人はこちらを訪れてください、という意味でVリンクを付けるのだ。これは非常に有効な手段である。EVEに載っている以上の情報に興味を持った人は、すぐにそれを手に入れることができる、まさにインターネットの可能性を象徴する技術である。もちろんEVEとそれらリンク先との(著作権利上の)違いを明記するために、Vリンクには必ず特定のマーク(byebye)を貼り付けてある。

リンクというと、お友達リンクのようにある意味で訪問者に対しての責任を丸投げするもののようにも考えられるが、私はむしろリンクを付けること自体そのものが価値になると思う。即ちそのリンクが私というフィルターを通してその訴えたい内容に適切な価値を生むのであれば、そのリンク先が私が創ったコンテンツでなくとも、そこに導くという意味だけでも価値があると考える。

なおハイパーリンクそのものの面白さは、私の友人で頭の切れるbyebye岩崎純一氏の個人サイトで体験することができたので付記しておく。

さて、リンクの話で忘れてはいけないものがある。実はEVEの中で一番のアクセス数を記録するページが一つある。それは「よっしーの部屋」という私だけしか入れないシークレットページである。EVEホームページからリンクしてあるものの、パスワードを入力しないと入れないため完全に私だけのためのページとなっている。そして私はここにインターネットのもう一つの可能性を感じている。

このシークレットページでは他のサイトへリンクがいくつも付けられている。もちろん、私が定期的にそれらのサイトへ訪れるためだ。それだけならお気に入り(ブックマーク)から行けばいいと思われるかもしれない。しかしそれよりもシークレットページの方が断然使い勝手がいい。

まず第一に何処からインターネットにアクセスしても、行きつけのサイトに行けるという点である。外出時でも、パスワードさえ忘れなければEVEからシークレットページに入れる。自宅PCにしか存在しないお気に入りでは不可能である。次にこのシークレットページを自宅PCのホームページに利用できる点である。いわゆる自前のポータルサイトとして活用できるため、ブラウザを立ち上げた瞬間から行きつけのサイトへのリンクが一覧表示される。これが非常に便利である。さらに、このシークレットページはいつでもカスタマイズできるため、「My Yahoo!」などのポータルサイトサービスよりも柔軟性が高い。株価やカレンダーを自前で表示させたり、アイデア次第で何でもできる。

文字通り表には出ていない秘密のページだが、Project EVEの実験場としてのEVEの大事なコンテンツである。そしてインターネットが個人のメディアたる証明でもある。即ち自分と他人のメディアだけではなく、自分と自分とのメディアにもなりうるという新しい可能性がそこにある。ある意味このシークレットページは「個人による個人のための個人サイト」というコンセプトが一番強く出ているページとも考えられる。

また、EVEを運営にあたり、一人の人物を忘れてはならない。田中洋輔氏。byebye個人サイト『田中企画(旧Yosuke Web Show)』の運営者であり、EVEのRadio Streetでは番組放送に携わってくれた人物である。彼は私よりも先に個人サイトを運営していた。彼は一つのキーワードをEVEに与えてくれた。それは「名刺」代わりのサイトというものだ。

つまり個人サイトは名刺だという。もし私に興味を持ってくれたなら、このサイトを見てください、そうすれば私のことが少し分かるようになっています…、そういうコンセプトだった。私は驚いた。EVEはインターネットというメディアの可能性を第一に考えていたが、田中企画はそんなものを追求せず、インターネットを単に自分の付帯的なものとして、即ちサイトを名刺というツールとして扱うという考えだった。私も早速、名刺的なサイトを創ってみた。それはこれまで公にしていない、byebyew3.to/yossyというサイトであるが、これは実際に就職活動の時に名刺代わりとして使っていた。この「名刺」という個人サイトの在り様も、また一つの可能性だと考える。

そして、私はProject EVEを通して「個人による個人のための個人サイト」というコンセプトを超える、大きな幻想を思い付くことになる。それが「closednet」構想だ。

私がこれまで言ってきた価値のある情報というのは、それ自体では非常に弱い(意義の薄い)存在である。しかしこれが(潜在的に)必要としている人と必要とされている時に上手に巡り会えた瞬間、今までになく強い(意義がある)存在になるという話はまさにヴァルネラブルの説明でしてきたことだ。仮にそういった巡り会いがEVEで行われたとしたら、即ち岩崎、田中の両氏のような圧倒的な個人(サイト)の力をインターネット(EVE)という人類の新しい知恵によって「有機的に」結合することができたら、どんなに面白いだろうと考えたのだ。

もちろん、ここで言う「有機的」結合とはインターネットがなかったら巡り会えない、訪れる人にとって今まで決してなかった新しい興味への契機(チャンス)のことだ。そんな有機的結合体「closednet」がインターネット上に点在し、やがてはそれがインターネットを形成していくというモデルを考えたのだ。実際、closednetに近いものは既に存在している。会員制のサイトもしかり、アクセス数の上がらない身内だけの個人サイトだって、知らないうちにclosednetのようなものを形成しつつある。しかし、根本的に私のモデルと違うのは有機的結合という部分だ。私はこれをEVEで「Y's Viewの延長」として実現しようと考えていた。

つまりY's ViewではY=私の意見だけを述べるページだった。ところがここにインターネットについては疎いがサッカーのことなら誰にも負けない私の大学の後輩T氏がいるとする。そこでY's ViewならぬT's View、即ちT氏による近年のJリーグに対する考察を述べるページをEVE内に設置する。私はサッカーに疎い。しかし別にサッカーが嫌いなわけではない。T's Viewを「ちょっと覗いて」みる。今までオフサイドの意味がよく分からなかったけど、それが解説してあって「明日の日本代表の試合、見てみよう」かなと思う。逆にT氏は先輩である私によるY's Viewを「ちょっと覗いて」みる。今までサイトなんて興味なかったけど「何となく個人サイトを創ってみよう」かなと思う。

もし、こういうことが起こったとするならば、これはインターネットがもたらした新しい可能性である。EVEという閉ざされた出会いのサイトで、今まで自分になかった価値の広がる契機が提供されたのだ。そして同時に自らの価値が全くの他人に必要とされるというヴァルネラブルな強さを持つ。幸い私の周りには、何か一つのことに抜きん出る人物が多かったため、こういうことをやってみたら大きな可能性を秘めていると考えた。

さらにもう一つ重要なのは、少人数でclosed(閉鎖的)でなければならないということだ。それはポータルサイトのような大人数かつグローバルな視点とは全く対照的であるが、私はむしろこれが重要だと考えた。少人数で気心知れた仲間内だからこそ、価値の広がる契機が生まれる。つまり後輩のT氏が書いたサッカー批評だから読む気になるわけであって、何万人もいる中から(しかもその数が毎日増殖していくなら尚更)、わざわざT氏の文章を選んでまで読もうとは思わないだろう。そしてこういったclosednetを実現する場所としてまさしく、個人サイトというメディアが適当だと考えたのだ。即ちアンチポータル、スーパーポータルとしての個人サイトである。

このようにclosednetを考える時、一つ参考となったのがbyebyeGaiaXである。これはビジネスとして確立しているので個人サイトではないが、非常に面白いサービスを提供している。この企業では私のようにclosednetとは呼ばず、「コミュニティー」と呼ぶネット上の無料サイト運営サービスを展開し、そこに集まった人々のコミュニケーションを実現している。同じコミュニティーの人なら性別や年齢、出身地や趣味などで検索できたり、訪れた人のサイトのURLがログとして残る仕組みになっているため、そこから相互にコミュニケーションが生まれたりする。この点でコンセプトが非常にclosednetと近い。「価値の広がる契機」という新たな価値を分かっている。

またもう一つ参考になったのは、Game Agesでも触れたbyebyeランドネットディディの「ランドネット」だ。これは完全にclosedなネットワークでかつ、会員にTVゲームという共通の話題があったため今後の展開に期待したのだが、惜しくもサービスを終了することになった。「ランドネットというコミュニティにおいて、今までありえなかった現象が生まれるのである。それはユーザと創り手にある垣根の崩壊だ。」とGame Agesで書いたように、ここにも価値の広がる契機があったように思われる。

そんなclosednetをEVEで実現すべく、私はある友人に相談してみた。当時やりあったEメールの数々を振り返ると熱っぽくなっている自分を再確認することができる。彼もある程度closednet構想を理解してくれたが、それを具体的な「形」にするには途方もなく漠然とした壁が存在していた。一人や二人だけの生半可な気持ちじゃ実現できないと結論づけたが、私はこの構想自体は間違っていないと思っている。もちろん今でもhttp://i.am/closednets/というURLをしっかり押さえている。

そしてこのclosednetの考えを引き継ぐ、Project EVEのもう一つの活動がE-ML(Project EVEメーリングリストサービス)である。closedなメンバーで今度はEメールを舞台にEVEと関連するコンテンツを配信してきた。前述の岩崎、田中両氏にも参加してもらい、ある程度の成果は得たと思っている。それは単に私の遅筆を矯正させるという目的もあったわけだが(今までに月に一度は配信してきた)、それだけではなく、メンバーからの発言によるメンバー間の交流が少なからず実現できたという意味である。これもE-MLがなければ在り得なかった新しい価値の契機である。またサイトにはない、Eメールの特性を掴んだという点でも大きな収穫となった。

このように私は大学生活をProject EVEとして打ち込んできたわけだが、しかしながら理想は高く、現実は厳しいというどうにも上手くまとまらない形、そしてなかなかまとまらないコンセプトがあった。「個人サイトとはいったいどういう性質を持つのだろうか、持つべきなのだろうか」という問題に一人立ち向かう中で、私以外の他人にとって結局、興味以外(即ちそれはEVEだった)のことは興味がないという壁を壊せないという事実があった。と同時にそれは私が他人の立場であったとしても、変わらないという事実もあった。まだまだインターネットという新しき幻想に躍らされていた部分があったことも否めないだろう。

結局個人サイトという括りが、もっと言えば個人とインターネットという関係が、まだ十分論議されていないということなのかもしれない。その中で、私が学生時代の終わりに、20世紀の終わりに、まとめとしてこういった主張を論文として書けたというのはとても幸せなことだと思っている。魅力的なアイデアをいかに形にするか、その重要性と困難さを実感できたのもまた、稀有な体験だと思う。

そして今このように一通りProject EVEを俯瞰して、感じることが一つある。それは生きていく上での「自分と他人のパラドックス」。哲学じみるつもりは毛頭ないが、やはりインターネットを手に入れた個人は、今まで以上に自分と他人との関わり方を意識せざるを得ない。簡単に言えば、どちらが大事なのかという至上命題でもある。ある意味徹底的に自分を主語にすることは、Project EVEという実験場の否定にも繋がっていく。大事にしていくのは何か。インターネットという無限の可能性の中で広がっていくには、精一杯の努力をしなければならない。Project EVEで個人サイトを考えるうちに、今度はその個人そのものに私のフォーカスが合っていった。

その個人とは紛れもなく、私、吉岡有一郎、である。

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