2000/12/27 @578(21:52)
私という主語 大学に入学して以来、インターネットという新しいメディアと接し、「EVE」という実験場でこの私がいったいどういう役割を演じられるのか、ただ個人的興味に基づいて「Project EVE」という活動を行ってきたが、結局その回答を得るには「個人サイトとはいったいどういう性質を持つのだろうか、持つべきなのだろうか」というところに辿り着く。このEVE Reportでは2回にわたって私がEVEで挑戦した個人サイトへの帰結を語っていく。 インターネットという中で私という「弱き」一個人が「メディア」を持つことが可能となったという話と、その大いなる可能性については、EVEイントロダクションや「ヴァルネラブル(脆弱的)」という単語と共に既に語ったが、では私がその中で何をすべきかという点については、大いなる疑問として残っている。私が私のメディアを持つためにできることは、個人サイトを「創る」ことのみである。そこで私はまず個人サイトを真剣に考えなければならないと考えた。そして、普通の個人サイトならば創りたくない、それならば創るだけ意味がないと考えた。 というのも基本的に個人サイトと言えば私の中では「全く面白みに欠ける」存在でしかなかった。それは過去形で言う必要もなく、それは現在でも揺るぎない事実であると思う。即ち普通の個人サイトは「自己満足」の域を出ない、(私にとってもそしておそらくあなたにとっても)極めて必要のない事象であるからだ。 個人サイトを創る動機はなんだろう。創ることそのものに対する欲望、他人に自分を見せたいという欲望などが考えられるが、ここで問題となるのが「他人との関わり」である。メディアとは文字通り「媒体」であって、二者を仲介するものだ。自分と対峙する他人が、そこには存在する。インターネットに自分を載せることで、世界中のあらゆる他人と関われるわけだ。ところが、インターネットは本当に他人と関われるのか、そこに疑念が生じる。 確かにインターネットは国境を越えている。いわゆるグローバルなメディアである。がしかし、これが本当にグローバルな実体であろうか。世界中の人々が私の個人サイトに訪れていると言えるのか。グローバルで「ありえる」という可能性だけで、実体は極めて身内のアクセスしかない、あたかも田舎町の片隅で自家栽培の野菜を路上販売している農夫と同じではないだろうか。私はここに、インターネットの現実と理想の大きなギャップを見る。 ただし、中には企業サイトすら遥かに凌ぐ個人サイトがあるのも事実である。例えばSAS(サザンオールスターズ)のファンサイトであれば、個人サイトの「くせに」本家サイトにはない貴重な情報、非売品のテレカやレコードの画像など、が載せてある。実は今日のインターネットを支えているのがこれらの数少ない「凄い個人サイト」であることは、既にみんなが知っているのだ。だから私は敢えて考えてみた。本当に「必要のある」個人サイトとはいったい何なのかを。 基本的に全ての物事の動機付けは「現状への不満」である。そう、私の個人サイトを創ろうという動機は、本当は「必要のない」個人サイトに対するもどかしさだ。何とかして、インターネットをもっと面白く出来ないか、そういう大きな野望がすべての動機付けだ。殊にインターネットは、その発展が我々世代にとってはリアルタイムである。インターネットの数々の不満は、我々世代の手で改良していかなければならないという、PC世代の自負を私は持っている。つまりこのインターネットという存在は、現在のお年寄りの中に今も続くあの忌まわしけれど青春でもあった戦争体験のような、または団塊の世代に根付く高度経済成長の担い手としてのアイデンティティのような、私達の時代にとって自らのための象徴的な拠り所でもあるわけだ。私の中にある個人サイトで自らの役割を演じてみたいと思う欲求(もっと言うならばPCに対する並々ならぬ欲求)の源泉が、少なからずそこにある。何にせよ、そんな思い入れの強いインターネットへの不満の頂点が、「使えない」個人サイトであったのだ。 もともとEVEは、私がインターネットに出会う前から存在した。EVE(Every Vauable Expression)は、私が高校時代に活動していた地元有志による毎月自主発行していたフロッピーディスク会報誌の1企画として誕生した。この会報誌では文章、画像、音楽、プログラムなど様々な表現方法で会員独自の作品を寄せ集め、会員内で配布していた。その中で私は文章という分野で投稿をしていたが、ある時、それまで多かった一人よがりの批評(これは当然自戒も込めている)ではなく、会員複数を巻き込んだ討論企画を思いついた。それがEVEである。私だけの価値ではなく、おそらく会員の数だけ埋もれているであろう価値(この場合はこの討論企画EVEで私が毎回取り上げるテーマに関して募った会員それぞれ意見)を、フロッピーディスク会報誌という当時としては画期的な自分のメディアで、表現してみたかったのである。現在インターネットに場を移したEVEという名には「数多く散らばるあらゆる価値をどうにかして上手に提供したい」という当時からの熱い願いがこめられているのだ。 さてこういう経緯の下、大学2年生の頃からインターネットに個人サイトEVEをとりあえず出展して以来、私は一貫してこの野望へ取り組んできた。様々な価値を寄せ集めようと、必死になってたくさんコンテンツを創った。またフロッピーディスク会報誌時代にやったような討論企画もやってみた。本当に「必要のある」個人サイトを目指して、頑張ってみた。そしてそれなりの評価や満足も得たが、そのような制作試行の内に、だんだんと別の問題が見えてきた。…それは「主語」の問題である。 即ちこの個人サイトEVEが必要なのは「誰」なのかという問題である。「必要」の度合いはアクセス数で測るものではなかった。つまり主語が違った。EVEを欲したのは紛れもなく、この私だった。「あなたが」必要とするのではなく、「私が」必要としていたのだ。EVEにあなたは必要なかった。 こう言ってしまうと乱暴な気がしなくもない。サイト(site)を開設しておきながら、見てもらう人はどうでもいいということになる。これは逆説的であるが、しかし大事なポイントだ。つまりあなたに「見てもらう」ためには、創り手たる私が必要でなければならないということである。まず、必要であるという主語に「私が」なければ、「あなた」にとって必要になるはずがないということだ。自分が見ないサイトを創っていて、あなたが必要とするだろうかということである。 だから私は「私による私のための」個人サイトを提供しようと考えた。EVEに訪れるメインのお客様をまずもって私と考え、私が一番喜ぶようなサイトを創れば、自然に「価値のある」サイトが生まれるのではないかと考えた。ここでいう価値というのはEVEと言う名前にこめられた「価値」そのものであり、あまたある価値の中から、Every Vauable Expressionという価値に昇華したものを指す。 例えばインターネットで情報を得る際に、検索サイトが必要となる。その場合に私は「Yahoo! JAPAN(ヤフー)」を使う。大概すべての場合がヤフーで片付いてしまう。というのもヤフーにはヤフーで検索できなければgooやinfoseekなど他の検索サイトに引き継いで検索する機能がついているからだ。だとすれば私にとってヤフー以外の検索サイトは一義的には必要ない。実はこの事実こそ、最も的確にインターネットの特性をついているように思う。つまり私にとって必要なものは、インターネット上に存在する星の数ほどのサイトではないのだ。私にとって価値があるのはこの場合、ヤフーだけだ。だからEVEにヤフーの検索窓を設置する。するとEVEは私にとって価値のあるサイトになる。そしてこういう私にとっての(その意味でヴァルネラブルな)価値を、EVEを通して「あなたが」手に入れられたなら、これこそがEVE独自の、Every Vauable Expressionとしての価値になると考えた。 その観点から私は、情報過多となっているインターネットの世界では情報を「意図的に絞る」必要があると確信した。EVEにもそれまで10ものコンテンツ(ここではコンテンツにBBSは含めない)があったが、この論理に基づき5つに減らした。その削減基準は言うまでもなく「価値」があるかどうかである。 価値のあるものとして選ばれたこの5つのコンテンツは、つまり他では絶対手に入れることの出来ないものであった。それまでコンテンツに含めていたもの、例えばSASの最新情報ならば、むしろEVE以外のSAS個人サイトを見たほうがより新鮮な情報をを得られたし、ならば私のサイトで掲載する必要がない。更新の遅いEVEの古くなったSAS情報を読むよりも、むしろ私にしか書けないSAS楽曲レビューを読む方がよっぽど意味があるのではないか。こんな単純なことに、私は長い間気付かなかった。 そして、このように私が主語の価値を紡ぎ出すことは、私にとってもう一つの収穫を得ることになった。それは私という価値を生み出す中で、「現状の自らの思考整理という」新しい価値が生まれ出てきたことだ。普段漠然と考えていることをコンテンツとして、時に文章で時にラジオ放送で形成していく。この過程は人生において非常に有意義なものだった。今こうして文章を書くことで自らの思考を改めて認識できたし、こんなに努力して衛星放送などの専門知識をかき集めることもEVEがなければなかっただろう。私は何かを一つの形にすることの困難さと楽しさをこのEVEを創ることから学んだ気がする。 以上のように、私はEVEのコンセプトを固めつつあった。「個人による個人のための個人サイト」、まずは自らが主語のサイトを創ろうと思ったのである。 |
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