SSS-003 "この青い空、みどり〜BLUE IN GREEN〜"

「New stage for all the people.」

2000/10/19 @768(02:27)

 

<Song Data>

2000/11/01 on Sale
12cmCDS(初回限定仕様:ケース入りオリジナルジャケット)
M2 チャイナムーンとビーフン娘
M3 心を込めて花束を(茅ヶ崎ライブVersion)
12inch ANALOG
M2 チャイナムーンとビーフン娘
M3 いなせなロコモーション(茅ヶ崎ライブVersion)
M4 心を込めて花束を(茅ヶ崎ライブVersion)

<Reviews>

まさか3回連続で新曲をレビューできるとは思っていなかった。それほどまでに、今年で23年目に突入した現在進行形のSASは活動的で刺激的だ。

というわけでまたも執筆段階ではまだ発売されていない今作、『この青い空、みどり〜BLUE IN GREEN〜』。私はラジオで初オンエアとなった9月末日以来から何度も何度も、複雑な思いで聴いてきた。

雑誌の取材で沖縄に出かけた桑田が現地で感じ取ったインスピレーションを元に、最後の最後まで詞作に時間をかけた今作は、本音を言えば、少なくとも9月末日時点の私の耳には、どうにも素直に届かなかった。何処か頭の片隅に浮かぶクエスチョンマークを隠し切れずにはいられなかった。

勿論その時の個人的な感情も左右しただろうが、それを抜きにしても何か「解せない」ものがあった。しばらく考えてみて、それは何処かで聴いたようなメロディによるものだと結論付けた。このGコード進行とアコギ&ハーモニカという路線は桑田自身が後に「ものすごくコンパクトな曲調」と明らかにするように、桑田のソロ最高傑作アルバム『孤独の太陽』および『祭りのあと』を彷彿とさせるものだったからだ。

歌詞も人間の恋愛感情などを無視した、地球を主語とする壮大過ぎたものだし、『TSUNAMI』に心底しびれたファンとしては20世紀の最後の最後に究極のラブソングの再来を意識せず期待していたのかもしれない。SAS肯定派の私ですらこの曲に当初、似非エコロジーのにおいを感じ取ったのだから、多くの人がそう感じてもおかしくない。

…しかし。

今もう何度聴いたか分からないこの楽曲を前にして、私の心にはどうにも言いようのない感情が芽生えている。聴けば聴くほど出てくる、これは何だろう、「味」が出てくる。味、この表現が最も妥当だと思う。スルメのように噛めば噛むほどに出てくる、味。しかもこれはSASというより、正真正銘、桑田佳祐そのものの「味」だ。

オンエア後、しばらくの間ぼぉーっとMDをリピートしていただけの私は、気付けばいつの間にかまだ正式に発表されていないコードと歌詞を追っていた。sus4の妙、単純というのは得てしてリスクであるはずなのに、しかしあたかもリスクなんかを忘れてしまったかのように「いなす」展開は、やはり桑田佳祐でしかありえなかった。

そして何より時間を費やした、歌詞。「愛なき世界」、確かにSASではおなじみ過ぎたの言葉。それはもう聴きなれてどうでもよくなっているはずなのに、何故かぴったりと調和する言霊。 お得意の脚韻はもちろん、無理矢理歌詞を詰め込んだBメロに遊び心と冒険心を感じずにはいられない。サビの英詞「New stage for all people. One dream creates tomorrow.」には仰々しさ半分、しかし真摯な神々しささえもうっすらと滲む。「現在は亡き友達の顔」、そこにあるのは寂しさというよりは侘しさだった。さらに、日本人の琴線を壊れるくらいに響かせる歌い方。「時代の流れの真ん中で」「己の罪に懺悔して」、というセンテンスに妙な説得力を含められるのはこの人だけなのかもしれない。

いつの間にか私は、「今一番分かりやすくて分かりにくいこのメッセージ」をどうしても伝えたかったという桑田の思いに、素直に共鳴していた。そしてこれこそがあの「味」だったのだと、確信した。

去り行く今世紀に、来る次世紀に、間もなく私たちは否応にも対峙する。こんなにも平和な2000年の日本で、この歌が言いたかったのは溢れる愛でも、訪れる憎しみでも、根拠のない幻想でも、ちょっとした価値観の違いから殺戮を繰り返す闘争でも、パソコンの前に独りたたずむ寂しさでもなかった。ただ一つの「希望」。それは国籍を超えた、「青い御空(であり、きっと美空)」。こんなにも当たり前で、カッコ悪くて、くさ過ぎて、ダサくて今更言う必要なんてなかったと誰もが思っていたこのメッセージに、気付いたら私はまんまと、はまっていたのだ。

PS 主題歌となっているドラマ「神様のいたずら」(KTV/CX系列)も、とてもいい感じです。

<終わり(敬称略)>

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