Southern Street 緊急特集
季節はずれの「さくら」たち

2000/12/08 @619(22:51)
<1998/10/03に掲載したものを再掲載>

 

ついに1998年10月21日、待望のニューアルバム「さくら」をリリースしたSAS。
我がEVEでも緊急特集として、この「さくら」を徹底特集したいと思います。
あらかた全体を聴いてみて、私は全く違うSAS、しかしながらやっぱりSASという印象を受けました。

まずは「さくら」の基本情報を紹介しましょう。

オリジナルニューアルバム「さくら」

CD:VICL-60300
税込3000円 1998年10月21日(水)発売
LP(2枚組):VIJL-60026〜27
税込3600円 1998年10月28日(水)発売

そして収録曲目は以下の通りです。

収録曲目

  1. NO-NO-YEAH/GO-GO-YEAH
  2. YARLEN SHUFFLE〜小羊達へのレクイエム〜
  3. マイ フェラ レディ
  4. LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜
  5. 爆笑アイランド
  6. BLUE HEAVEN
  7. CRY 哀 CRY
  8. 唐人物語(ラシャメンのうた)
  9. 湘南SEPTEMBER
 10. PARADISE
 11. 私の世紀末カルテ
 12. SAUDADE〜真冬の蜃気楼〜
 13. GIMME SOME LOVIN'〜生命(いのち)果てるまで〜
 14. SEA SIDE WOMAN BLUES
 15. (The Return of)
01MESSENGER〜電子狂の詩(うた)〜
 16. 素敵な夢を叶えましょう

前作「Young Love」以降に発売されたシングルA面曲を全て収録し、さらにオリジナル曲を加えた全16曲
そして収録時間は、78分29秒(曲間の空白時間を含む)。
CDの収録限界時間が78分55秒であるのを考えると、まさにギリギリの収録時間と言えるでしょう。
そしてシングル「愛の言霊」以来続いているアナログ盤の発売ももちろん行われました。

ところで今回の「さくら」というタイトル、いったいどういう意味があるのでしょうか。
10月という季節にはちょっと合わない気もする「さくら」。
このタイトルについて桑田さんは次のように語ってます。

「さくら」は、日本人の感性の中に深く静かに観念的なものとして入り込んでいる。
たかが花かもしれないけど、その捉え方として「凄いな…」という気がした。
(以上TFM系列「FMワンダーランド」より概要抜粋、以下の太字も同)

確かに日本の花と言えば季節とかそういう以前に桜という答えは返ってくると思うし、桜の季節にござを敷いて家族で仲間で、桜と共に打ちとけあう(=お花見の)姿というのは日本のだんらん、もっと言えば「家」的制度というか、小さな集団としての日本人の性格みたいなものを出している気がします。
その意味で「桜」は日本人のシンボリックな存在とも言えるでしょう。
むしろ「桜」という存在で、日本人の在り方があるというか、そんな「実は埋め込まれていた」的な感覚を桑田さんが感じたのかもしれません。

僕らは「PARADISE」の歌詞にある「娑婆でもない 黄泉でもない」という、そんな世界の中に生かされているのではないだろうか…という思いを込めて「さくら」というタイトルにした。

抽象的ではありますが、多分、日本というよりは「日本人」の、その中に連綿と生きつづけるアイデンティティみたいなものを、日本という土地で春になればまた咲き誇る「桜」という生き物に例えたのではないかと数々の「さくら」たちを聴いて思いました。
「桜」が「さくら」であるのも、桜の木や花そのものではなく、やはり「日本人」というところまで含めての「さくら」であるからなのでしょう。
意識はしないでも、結局は日本人であることで自分を保っているというか、そういうところを微妙にえぐり出すアルバムになってるんじゃないかと思います。

何にせよ、今までのSASとはまた違った、20周年という長きスタンスを経た現在だからこそ彼らが追いつづけるもの、を苦悩しながら産出したという印象があります。
そこには、しかしながら相変わらずSASはありつづけるのです。

それでは個々に「さくら」を振り返ってみましょう。

NO-NO-YEAH/GO-GO-YEAH

桑田さんも歌詞に苦心した(なかなか思い浮かばなかった)歌のようです。
ほとんど単語の羅列で、ますます意味は分からない桑田マジックが健在です(笑)。
「ナイチンゲール(つぐみ科の鳥らしいです)」とか「ドラえもん」とか。
ドラえもんは正真正銘、あのドラえもんのようです(笑)。
「ドラえもん」と歌詞に入れちゃうあたりが、私は大好きです。
サビは英語詞で、やはり英語中心の語感尊重型の歌には間違いないと思います。
それでも「赤いビニール繊維」「レーヨン繊維」とか、「イオン」「ウラン」「フロン」といった韻を踏むあたりの細かさが生きて、曲と一体となって聴く人に大きなパワーを感じさせます。
曲調は何だかheavyで、最初洋楽のようにも思いました。
今までのSASとは少し違うな、という印象です。
曲時間6分弱も長めですし。

なお、歌の途中で桑田さんが「アディアサガルタス」とか叫んでますが、これは逆さから読むと「さくら咲いた」となるそうです。
こういった意味の無いこだわりが、私には逆に凄く意味のあるように思えてなりません。

YARLEN SHUFFLE〜小羊達へのレクイエム〜

今現在一番気に入ってる歌です。
歌詞も大好きだし、何か曲がカッコいい。
韻を踏んだ早口の歌詞が曲に乗ってる(跳ねてる)んです。
収録時間は4分強なんですが、いつもすぐ終わってしまう気がしてしまいます。
サビの「君よサラバ☆サラバ」のところなんか一日中頭の中でループしてます。
「夢☆ドリーム」とか「愛☆スクリーム」という日本語と英語の掛け合いも好きですし、これはイケてる!!
皮肉った歌詞だけど、「さくら」とタイトルにあるように「希望」は捨てられてないんですね。
むしろ応援歌なんですよ、こんなご時世だからこそ。
歌いながら「頑張っちまおうぜ!!」みたいな気分になります。

ところで関係無いけど間奏のところ、ちょっと古畑任○郎みたいな感じしません?
そこもイケてる!

マイ フェラ レディ

それにしても凄いタイトル(笑)。
普通、こんなタイトル付けますか???
それをやってのけるのが、SASの偉大さ(アホさ?)。
この歌は去年のスペースシャワーで最初に歌ったあの名(迷?)曲ですね。
歌詞も相当にイってます(笑)。
なるほどこの歌詞でこのタイトルだったのか、と思わされる歌です。
私は、このタイトルを思いついた桑田さんを尊敬します(爆)。
もうそれしかコメントありません(と、逃げる)。

LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜

1997年〜1998年の年越しライブで初めて聴いた歌。
あの場ではそんなに印象深かった訳でもないのですが、ドラマとともに歌の意味を考え、そして今では自然と一緒に口ずさんでしまう歌です。
売れる歌を書けたという意味で、桑田さんも実際嬉しそうですし、私はそれで良いと思うんです。
行った事もない観光名所を散りばめて、こんなカッコいい男を描いちゃうのですから。
これこそ「桑田マジック」と言わず何と言うでしょうか?
「さくら」に共通するイメージとしての「常識への諦観」というか、「好きなんだから仕方無いじゃん」みたいな、そういった意味でもこの歌は「さくら」に必要だったのだ思います。

爆笑アイランド

タイトル考えるとき爆笑問題のことが頭にちらついたかどうかは知りませんが、内容に直接彼らが関係しているわけではないようです。
これもスペースシャワーで「川長の子供…」として公開されていましたね。
「爆笑アイランド=我がアホアホニッポン」の公式が歌われているようです。
「安全なんですと、長官(ボス)は言う」
「援交なんですと、少女は言う」
「瞑想なんですと、教祖(グル)は言う」
「行革なんですと、ギャグを言う」
とアイロニカルな詞の応酬!!
間奏では桑田さんと原坊との掛け合い(ラップか?)もあります。
これは実はあの小渕総理大臣の所信表明演説からの抜粋とか!?
どうやらインターネットから引っ張ってきたらしいのですが、桑田さんもネットを使ってるんですね。
つくづくインターネットの力には驚かされます。
まぁこの部分の内容に関してはストレート過ぎる気もしますが、良しとしましょう。
最後の「無節操な人災」というフレーズ。
ほんと、最近はそればっかです…。

BLUE HEAVEN

このシングルが出た頃の、学校帰りに見上げた「透き通った淡いブルー」を思い出します。
そう、夕焼けた中に青くグラデーションがかかったあの空。
それをメロディに乗せたかのような、そんな歌のような気がします。
コードも簡単だし、きっと曲的にも単純なんだろうけど、純真(pure)という言葉しか思い付かない歌です。
人から何と言われようと、この歌大好きなんだな。
何て言うか、心が透き通るんですよ、いやマジで。

CRY 哀 CRY

これはTVCMで初めて知った歌です。
曲調が途中でがらりと変わるのにびっくりしたもんです。
でもそれもまた良いかなと。
それにしても桑田さん、「哀」という字をあまり使わないんですよね。
いつも「かなしい」は「悲しい」なんですよ。
私は「哀」という字が好きなので、そういう意味でも気になった歌です。
アイという響きが良いです。
多分もともと「I」で歌ってたんでしょうけど、そこを「哀」としちゃうんだから。
「愛」じゃなくてね。

唐人物語(ラシャメンのうた)

原坊がボーカルの歌。
ゆったりと、切なく美しく歌っています。
このアルバムで唯一「さくら」という言葉が出てくる歌でもあります。
「ラシャメン」「黒船」「下田港」という言葉が、もう決して肌で感じることの出来ない時代を思わせます。
はかない叙情詩のような感じです。
実際にあった「唐人お吉」の物語を織り込んでいます。
原坊も歌詞にいろいろ悩んで歌い上げたそうです。
そのせいもあってか、決して死は予感させません。

湘南SEPTEMBER

とっても落ち着くというか。
帰って来たなぁ、みたいな感じの懐かしい曲調。
軽快な3拍子が心地よいです。
懐かしの「海」に舞い戻ってきた、でも今はもう違うんだよ…みたいな郷愁も感じつつ、そんな時に流れてほしい歌なんじゃないかと思いました。
「湘南」という言葉に抵抗のある人もいるようですが、結局桑田さんには良くも悪くも心深く刻まれてる言葉なんじゃないか、とも感じました。

PARADISE

ドラマの主題歌となっていましたが、そんなものになる必要なんか無い歌だと思っています。
ドラマに合わせても違和感はないくらい、つまりは普通にしか感じさせない曲調に乗せられた深い意味。
いわゆる「核」に守られた見せかけの平和「日本」に対するアンチテーゼに他なりません。
死なされず生かされてる日本を「PARADISE」と、うわべを取っ払って宣言している歌なんです。
つまりはそういう「平和」もアリなんじゃないかと、そう言える為のリハーサルの歌、のような気がしてなりません。

私の世紀末カルテ

実はシングルのカップリングで出た時には、「嫌い」な歌でした。
桑田さんは最初これをドラマの主題歌にと作ったようですが(結局「LOVE AFFAIR」になりましたね)それを聞いた時、「桑田さん何を言ってるんだ?(もう少しドラマの事考えるべきだ、あまりにもこれじゃドラマが可哀想!)」とすら思っていました。
つまりはアコギ一本携えて歌う桑田さんの姿勢がどうしても納得できなかったのです。
それはソロでしかないような気がして。
「SASは何処へ行ってしまったのか? 他のメンバーの事を考えてないのか?」
という疑問が消えなかったのです。
その後の桑田さんの「これもSASの一つの形」という説得にも納得できませんでした。
そして今回のアルバムで改めて聴いて。
スッと何かが身体の中を通って行ったような感じで、今までの疑問が無くなってしまいました。
7分弱の長たらしかった収録時間も、ネガティブの境地のような歌詞も、桑田さん以外のメンバーを感じられないスタンスも、この「さくら」というごった煮の中では、奇妙な説得力と共に私をねじ伏せてしまいました。
SASという形式的な枠を取っ払って追求した末の、つまりもうソロとかどうとかではなくて、メンバー各人が自分の役割を担っているという20年の重みが、「さくら」の、しかも何故かこの曲から感じてきてしまったのです。
そう思ってもう一度ちゃんと聴いてみれば、あの繰り返すフレーズが何とも良い。
今までの常識みたいなものを敢えて破って、頭だけで納得しようとしていた「気持ちの良いこと」を真っ向から突き放してくれるこの歌に、ある種諦観するしかない気分で聴けるようになったのかもしれません。
惨めなほど腐った心情を吐露出来ない「虚構のプライド」に相対するような、それ自体は嫌悪の何物でもない歌であることを、「さくら」が教えてくれました。

SAUDADE〜真冬の蜃気楼〜

いや、大人な歌です。
ボサノバっててカッコイイです。
何か聴いてると自分が大人になっていくような気がします。
SAUDADE(サウダージ)とはポルトガル語で「哀愁」などの意味だそうです。
シングルでもいけそうな(これは内容でもセールスでもの話で)感じです。
詞がなかなか思いつかなくて、以前にもらったある絵をモチーフに作っていったそうです。
もうこれは曲の勝利というか、こういうムード溢れる歌を聴いたのは久しぶりです。
特にサビのところが良い。
「人はどうして、どうして、あてもなく過去への扉を叩いて生きるの?」
「人はどうして、どうして、絶え間なく今来た旅路を振りむくものだろう?」
うーむ。深い。

GIMME SOME LOVIN'〜生命(いのち)果てるまで〜

よく見ると、これもまた相当な詞です(笑)。
こういうこともアブノーマルでなくなっているという風に桑田さんも言っていますが、そうした今までの常識を徹底的に破壊することもまた、一つの手法になりつつある時代を良く表しているように思いました。
そしてそれが許され、むしろそうしなければやってられない、良くも悪くもそれから…になってしまった時代なのでしょうか。

SEA SIDE WOMAN BLUES

たけしさんもカヴァーしたこの歌は、一年前から知っているのですが、改めてカッコいいなぁと。
私には絶対分からない世界だと思うので。
こういう歌を知らない世代だし、書けない年齢だし。
だからこその魅力というか、そんなものを無茶苦茶感じてしまいます。
嫉妬と言っていいかもしれません。
「愛という字は真心で、恋という字にゃ下心」なんて、うわー!!、クサいとしか反論出来ない(哀)。

(The Return of)01MESSENGER〜電子狂の詩(うた)〜

何とSASがバージョン違いの歌を出しました。
正直ビックリですが、これも新たなSASの試みとして受け止めています。
意味もないアレンジとは全然違うので。
シングルで出た「01MESSENGER」をSAS流ドラムンベースでアレンジしたバージョンです。
カッコいいです。
原曲よりカッコいいと私は思います。
ドラムンベースの詳しい内容は私には分からないですが、全体的なノリみたいなものが強調され、より一層深くなってます。
ベースって響きますね。
現在の技術では音楽の作成に終わりが無い(どこまでもいじれる)と桑田さんが言っていますが、この歌もまたそういう時代の流れが産出したものでしょう。

素敵な夢を叶えましょう

これと「NO-NO-YEAH…」の曲順は最初から決めていたそうです。
「さくら」は「海のYeah!!」で終わった「今までのSAS」からの新たな挑戦、新境地という意味合いをメンバー自身が強く感じて、そして私もそれに期待とか一種の凄みを感じているんですが、その中にあってこういう風に過去への感謝みたいな、ストレート過ぎて少し恥ずかしいような、でも正直な歌を入れるところにSASの新たな可能性を感じました。
「渚園」での花火をここで振り返っているんだけど、でもそのことが逆説的にこれからの意気を感じさせるあたりが、「さくら」のクロージングナンバーとしての、そして「NO-NO-YEAH…」に続くオープニングナンバーとしての存在なのかなと、リピートしっぱなしのCDを聴きながらふと思いました。

…という訳で。

聴く人それぞれに思い思いの「さくら」が咲き誇るとは思いますが、私なりの感想を書き綴ってみました。もしあなたの感想などをお聞かせ願えるなら、ぜひこちらに書き込んでみてください。

 

 

Copyright 1998-2000 Yuichiro Yoshioka/Project EVE
Produced by Y.Yoshioka