任天堂とリクルートが手を結ぶ
〜ランドネットDDの目指す未来〜

1999/10/24 @429(18:18)

 

以前GameAgesでも取り上げたように、任天堂とリクルートは、会員制ネットワーク・サービス事業に関して共同出資の新会社「株式会社ランドネットディディ(以下ランドネットDD)」を設立し、予定通り12月1日より任天堂の64ビット・TVゲーム機「NINTENDO64(以下N64)」及び「64DD」を端末として使用する有償コンテンツ配信サービスを実施する。

そして去る10月20日、ランドネットDDはその具体的サービス内容を正式発表した。

今回はその発表内容を紹介しながら、任天堂とリクルートというある種共通であり斬新な思想を持った企業が提案する「新しい遊び」の可能性を深く追求していく。

その前に、もう一度この新会社についておさらいしておきたい。平成11年6月30日に設立されたこの新会社は資本金が4億6000万円、株式はリクルートと任天堂が共に50%を持つ。また社員数は20人程度で、両社から出向となっているようだ。そして業務内容は

TVゲーム機を利用した会員制ネットワークビジネス

とはっきり定められている。
つまり64DDによる「新たな遊び」の提供だけをその目的とするのである。

またその遊びを社名ともなっている
ランドネット
(以前はエンターネットとしていたが変更になったようだ)
と称し、主なサービスとして

1.ネットワークを使ったゲームの世界の拡大
2.ハードも含めた月会費制度で大幅な価格ダウン
3.店舗と直販売を併用した新しい流通システムの導入

を行っていくという。

具体的には

・ソフトの通信販売
・プリントメールサービス (有料)
・デジタルマガジン(一部有料)
・インターネットサービス
・ゲームデータの追加
・ネットワークゲームの提供

などとなっている。

また1999年12月1日のサービス提供に先立ち、11月11日より会員募集を開始する。
なお初回募集は10万名限定とし、2次募集以降の日程は未定としている。

気になる利用料金は

N64を持っていない場合
 Aコース  月額3300円(初年度)
既に持っている場合
 Bコース  月額2500円(初年度)

であり、共に2年目以降はスタータキット及び付属ソフトの所有権が会員に移転し、会費は月額1500円となる。
(なお、送料として別途1500円が必要となるとのこと)

会員にはスタータキットと付属ソフトが送られる。

<スタータキット>
・64DD本体
・メモリー拡張パック
・N64モデム
・ランドネットディスク
・マリオアーティスト コミュニケーションキット
・モジュラーケーブル
・N64本体&AVケーブル(Aコースのみ)

<付属ソフト>
・巨人のドシン1
・マリオアーティスト ペイントスタジオ
(ここまで12月に送付)
・シムシティー64
・マリオアーティスト タレントスタジオ
(ここまで2000年2月に送付)
・F-ZERO X エクスパンションキット(仮)
・マリオアーティスト ポリゴンスタジオ
(ここまで2000年4月に送付)

<その他>
・マリオアーティスト バックアップディスク(仮)
(2000年4月に送付)
・N64キーボード
(2000年3月発売予定)
・現代大戦略
・日本プロゴルフツアー64(仮)
・井出洋介の麻雀塾
・デザエモンDD(仮)
・将棋(仮)
・サウンドメーカー(仮)
・レブ・リミット(仮)
・DDシーケンサー(仮)
・DT DD版(仮)
・ウォール街(仮)
(ここまで発売予定ソフト)

とりあえずの感想としては、「安い!」ということだ。TVゲーム業界として初めて月会費制を導入し、初期投資における相当のコストダウンを図っている。これは画期的で素晴らしいことである。会員制というある程度限定したユーザに対象を絞り込むこと(私はこれをクローズドネットと呼びたい)で、サービスを完全に行き届いたものにするのである。

そしてクローズド(閉鎖的)にすることで、単なるコストダウンに留まらず、ユーザ情報を一括することによる流通の一元化を図ることが出来るのだ。

今回の新会社は「TVゲーム業界初の店舗と直販売の併用」を謳っているが、それはこのユーザ情報の一括という方法を取ることでしか成し得ない。つまりゲームソフトを欲する家庭にはTVゲーム業界これまた初の「ハードディスク」である64DDが必ずあるわけだから(ここがクローズドな利点、今までの販売方法ではこの仮定は不可能だった)、ソフトは電話線を介して送信することが出来る。従来の販売店を通したコストは、電話料金だけで代替出来る。しかもそれは1回で済むのだ。インターネットのように長期に渡って接続する必要は無い(ここらの論議は前述の通りである)。

また当たり前だが必要に応じて販売店を利用することも出来る。ハードの受け渡しは近所のコンビニという方法も取れるのである。以前より選択肢が広がったという点こそが非常に注目すべき点なのである。そしてそれらの注文は64DDで行えば良い。情報は直接ランドネットDDに送信される。ユーザはソフト予約という名の「行列」とはもう無縁なのだ。

またこのユーザ情報の一括にはクローズドならではの利点がもう一つある。それはインターネットのようなオープンネットでは叶わない「守秘能力」である。ネットが閉鎖的である分、外に漏れる心配は最初から存在しない。これはネットコマースにおける重大なアドバンテージであるはずだ。

さて今まで見てきたような現状にはありえなかったゲーム環境のレベルアップもさることながら、肝心のゲーム内容についても同様以上の効果があることを以下に見ていきたい。

ランドネットDDは自身の特徴をまずこのように挙げている。

「今までのゲームは、クリエイターが作り上げた世界を一方的に提供し、ユーザーはその枠のなかで遊ぶだけでした。ランドネットでは64DDの通信機能とデータの書き換え・書き足し機能を利用して、初めてユーザー参加型のゲームの世界を提供し、ゲームの世界のひろがりを図ります。」

はっきり言ってこの文章に尽きるわけだが、私が強調したいのは、64DDによってTVゲームによる遊びが「ユーザを巻き込んだ」レベルへ転換する可能性である。 そしてそれには今までになかったインフラとしての(ハードディスクである)64DDが欠かせなかったというわけだ。

後に詳しくソフトを見ていくが、例えばそれは任天堂が力を入れる「マリオアーティストシリーズ」に代表される、「創造のおもちゃ」という観点なのだ。

ランドネットDDのサイトにて、サービスの一つとして当たり前の様に小さくこう書かれている。

コミュニティ

私はこの言葉を見逃さない。コミュニティ=共同体とは、ここではもちろんクローズドなものの集合と言う意味である。ランドネットというコミュニティにおいて、今までありえなかった現象が生まれるのである。それは「ユーザと創り手にある垣根の崩壊」だ。

マリオアーティストでは実際に自分が自由にキャラクターを産み出すことで「楽しさ」を享受することが出来る。ここまでの楽しさは現状でも数こそ少ないが存在した。しかしそれがランドネットというコミュニティで一つの作品として提示されたその瞬間、今までなしえなかったことが現実となる。ユーザが創り手と同義になった瞬間だからである。

そう、コミュニティにおいてはユーザは(厳密には二次的な)創り手であり、それこそが「新しいおもちゃ」たる所以であると私は考える。

もしかしたら創り手はそのコミュニティの意見を汲んで新しいゲームを創造するかもしれないし、またユーザはその域を完全に脱して創り手となるかもしれない(余談だが任天堂は新たなゲーム制作専門子会社「モバイル21」を持っている)。また逆に創り手がコミュニティによって革新した自らのゲームの新たなユーザとなれるかもしれない。

今まで隔てていたユーザと創り手の「垣根の崩壊」とはこのような大革命であり、そしてこれこそが大多数の望む新たな「楽しみ」だと思うのである。

ここからはその楽しみに触れるため、各ソフトに注目してみよう。

<巨人のドシン1>

1と付くくらいだから、制作者(飯田和敏氏)は先のことを考えている。つまり事後新たなディスクに書き換えるということだ。「DDじゃなきゃ出来なかった」と言う氏の思いが詰まった作品である。

まだ実際に触ったことがないから何とも言えないが

「広大な地形を丸ごとセーブしたり、ゲームをしていない時間でも島に変化を起こす」

というのは64DDならではのシステムだろう。

また資料には「プレイヤーは、作者さえも予測しなかった島で、作者さえも予測しなかった大きさの巨人と出会うことになる」とも書いてある。

これこそクローズドなコミュニティにおいて大きな価値を持つのではないか。制作者も覗くだろう独自のコミュニティにおいて、この1ユーザによる「ゲームの進化」は、大きな発見であり大きな楽しみであるはずだ。

<マリオアーティストシリーズ>

「すべてのユーザーにアーティストになってもらうことをコンセプト」としているこのシリーズ。先にも書いたがつまりこれこそ「新しいおもちゃ」なのではないか。3つのシリーズではそれぞれ絵を描いてヒーローを作り、車や飛行機を設計して、動かすことが出来る。

つまり私は子供の頃の粘土やらプラモデルのようなものだと思うのだ。私自身は粘土の独特の臭いが嫌いだったが(笑)、何かを創るという喜びは誰ものように持っていた。子供は素直にそれらのおもちゃを受け入れ、楽しむことが出来る。そしてそれは大人にだって楽しいはずだ。もしクローズドネット内で自分のキャラクターを自由に暴れまわらせることも出来るならば、尚更ではないか。

昨今のインターネットの個人サイト制作ブームにしろ、自分史ブームにしろ、人間には共通の楽しさ(娯楽)が絶対ある。私はそれがクリエイティビティ(創造性)だと信じている。そしてTVゲームに少なからず関係していることも、だ。

<シムシティー64>

マリオアーティストがキャラクターを創るのであれば、今度は都市を創る。マリオアーティストよりはもっと「ゲーム」寄りだ(今までのTVゲームというのを踏襲している)が、これだって立派なクリエィティブだと私は思う。さらに64DD的なのは「ペイントスタジオ」で描いたデータを読み込んで、その人物を都市の住人として街中を歩かせることも出来るということ。つまりデータの共有という新たなシステムである。

<F-ZERO X エクスパンションキット(仮)>

これはロムカセット版「F-ZERO X」にデータを追加することが出来るキットだ。データ追加という新たな可能性は64DDというハードディスクを採用することで可能になった(前述の通り)。似たものに「ゼルダの伝説DD(仮)」も挙がっているが、今回の発表ではなかった。個人的にはそれ全体として完成度の高いゼルダにも期待している。

<DT DD版(仮)>

まだ詳細は明らかになっていないが、これはゲームボーイ(以下GB)を「液晶の付いたコントローラ」として使用するという新しいシステムのゲームである。このようにランドネットDDは64DDとGBなどの他のハードとの連動についても言及しており、これは例えば空間的制約(家でのゲームと外でのゲーム)を無くすものとしてなど、今までにはない(精神としてそれはタブーだったのかもしれない)補完的なアドバンテージを次々と産み出す結果となるだろう。

さて、以上まとめると、どういうことになるだろう。

就職情報や同趣味系専門情報誌を多く発刊し、いわゆる「コミュニティ」を良く理解する企業である(と私は思っている)リクルートと、子供の笑顔に繋がる、即ちそれは純粋に遊びを追求する企業である任天堂が、組む。

私にはこれが夢のようなタッグだとしか思えない。以前雑誌にてランドネットDD取締役の香山氏の談話を読んだが、思想が非常に柔軟である。64DDを使ってFCやSFCの旧作をライブラリー化させるとか。今までシステム上出来なかった「楽しいこと」をやりたい。ただ、それだけであるが、それを目を輝かせて追求する姿勢。私はそれを魅力的だと思わずにいられない。

<Links>

byebyeNintendo

byebyeリクルート

byebyeRandnetDD

byebye巨人のドシン1公式サイト

byebyeKyojin.com(EVEと相互リンク)

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