ついに現われたソニーの野望
〜世界頂点へのシナリオ〜

1999/5/15 @403(17:41)

 

去る3月2日、ついにソニー・コンピュータエンタテインメント(以下SCE)が沈黙を破った。
「次世代プレイステーション」の基本仕様を公開したのだ。

世間では「プレイステーション2」として騒がれているが、正式名称はまだ未定だ。
しかしながらこの次世代のマシンはまさに「プレイステーション」の名に相応しい、エンターテインメントの集合場所としての可能性を読み取ることが出来る。

「この次世代システムは将来の家庭におけるデジタルエンタテインメントの中核を担うべく開発されたものです。 」

これはSCE発表の文章にある一文である。
ここには最早「TVゲーム」という意識はない。
TVゲームを足がかりにさらなるエンターテインメントの結集を図っているのだ。

そういう意味でもこのマシンの「名前」は気になるところだ。
さて早速このマシンのスペックを見てみよう。

 

CPU

128ビットRISC
“Emotion Engine”

クロック周波数 300MHz
メイン・メモリ 32MB
(RDRAM×2ch@800MHz)
キャッシュ・メモリ
命令:16KB
データ:8KB+16KB(SP)

浮動小数点演算性能 6.2GFLOPS/秒
三次元CG座標演算性能 6,600万ポリゴン/秒
圧縮画像デコーダ MPEG2
グラフィックス

DRAM内蔵並列描画プロセッサ“Graphics Synthesizer”

クロック周波数 150MHz
混載DRAM容量 4MB
(@150MHz)
ピクセル構成
RGB:Alpha:Z(24:8:32)
最大描画性能
7,500万ポリゴン/秒

サウンド

SPU2+CPU

同時発音数
ADPCM:48ch(SPU2)+ソフト音源数
サンプリング周波数
44.1/48KHz

I/O Processor

PlayStation CPU

クロック周波数 33.8/37.5MHz

IEEE1394

USB

通信ポート

PC-Card(PCMCIA)で対応

メディア CD-ROM/DVD-ROM

 

特に注目すべき点を赤字で挙げたが、まずは完全なる128ビットRISCを使用していることだ。
これは汎用PCの32ビットやNINTENDO64の64ビットを遥かに凌ぐデータ処理能力と思われる。
以前のSS(セガサターン)に見られた32ビット×2で64ビットのような並列繋ぎのインチキではなく、完全なる128ビットCPUは世界初である。

CPU全体の演算性能は、浮動少数点が6.2GFLOPS/秒とスーパーコンピュータ並みの値になり、これを三次元CGで標準的に使われる座標/透視変換処理に適用した場合、演算性能はピーク値で6600万ポリゴン/秒に達する。
これは映画製作に使われるハイエンドのグラフィックス・ワークステーション(GWS)に匹敵するものだそうだ。

同時に、MPEG2のマクロブロックレイヤ・デコーダを同一チップ上に搭載して、より高品位の三次元CGテクスチャデータやDVD映画並みの高品位動画像を、アプリケーションの中で3DCGと同時に扱える。
今までは動画なら動画しか映し出せなかったが、動画の中で3Dキャラクターをも動かせるという訳だ。

また、メディアにDVD-ROMを採用したのが非常に有望だ。
先に挙げたようにMPEG2デコーダをCPUに搭載しているため、このマシンはDVD再生装置としても使えるわけである。
普及の遅れるDVDの浸透にも一役買う訳だ。
これだけでも存在価値がある。

さらにグラフィックスにはDRAM/ロジック混載プロセスの採用により得られた2,560ビット(PC用グラフィックス・アクセラレータの20倍のデータ幅)という巨大なバンド幅を利用した、超並列描画エンジンを導入する。
これにより、微小ポリゴン描画の場合では最大毎秒7,500万個、微小パーティクル描画の場合、最大毎秒1億5千万個の描画が可能になり、映画の品位に近い画像をリアルタイムに生成出来る。
また、Zバッファ付/テクスチャ付/光源あり/半透明のポリゴン描画でも、連続して毎秒2,000万個ものポリゴンを連続して描画することが出来る。
これだけのことをメインCPUに負荷をかけず出来るのは凄いことだ。

サウンド面は現行の「プレイステーション」用音源を拡張し、さらに豊かなデジタル音を楽しむ事が出来、また、CPUの膨大な演算処理能力を活かしたソフトウェア音源やエフェクト処理、AC-3やDTSといった最新のデジタル立体音響の処理も、拡張されたマルチメディア命令でリアルタイムに実行出来る。

ここまでは現在の技術で可能な限り最高のパフォーマンスを積んだパーフェクトスペックAVマシンの一面を見てきた。

そう、既にここで「TVゲームマシン」という範疇は抜け出している。

しかし、このマシンはまだ終わらない。

全世界で約3,000タイトルにも及ぶ豊富な「プレイステーション」対応ソフトウェアを継続して楽しめる様に、完全なる下位互換性を実現する。これは次世代システム環境の上に、現行「プレイステーション」と同じ32ビットCPUコアを新規I/Oプロセッサに採用し、命令コードレベルの正確な互換性を保つことで実現する。
つまり物理的にプレイステーションを内包するシステムになっている。
これは以前、任天堂がFCからSFCそしてN64に移行した際に、過去を切り捨てたことによって抱えた「経済的ロス」を回避する大きな意義を持つ。
これは大会社でありエンターテインメントの支配者たるソニーとしては絶対にやらねばならない至上命題である。
これを実現した時点で、大きなハードルを飛び越えたと言えるだろう。
因みに任天堂の抱えた問題はそれなりの効果もあったわけだがそれは別の機会に説明を譲ろう。

さらに、驚くべきことはUSBIEEE1394PC-Card(PCMCIA)の搭載である。
この時点で既に最新汎用PC並の拡張性を保っている。
これは殊に既存かつ未来のメディアをそのまま使えるという意味で特徴的だ。
つまりこれはTVゲームマシンという名のパーフェクトAVマシンであり、なおかつあらゆる電気製品の中枢たる家庭用スーパーコンピューターなのだ。

つまりこのマシンはTVを始め(TVゲームマシンだから当然)、ビデオ、コンポ、冷蔵庫、洗濯機、レンジ、電話、照明など全ての家電製品の司令塔となりうるのだ。

このいわゆる「集権」システムの是非はともかくとして、実際このポジションをアメリカのウィンテル連合が汎用PCとインターネットを武器に目指しているところであって、このマシンは最近活気付くその「反」勢力として大きく可能性を秘める。

個人的な見解として、汎用PCはこの集権システムには似合わない性格だと思っている。
それはむしろ個人の開発ツールであるべきで、独立である方が使いやすい。
またTVゲームというのもそのルーツから言って、またその理念と対象から言ってもこの集権システムの匂いはしないものだと確信している。
その意味で、この集権システムのポジションはこのマシンが受け継ぐべきで、日本を代表する大企業の「本気で勝ちに行く」という構図が、大きな意味となるだろう。
よってTVゲームの発展という意味では敢えて期待しない

技術的に一つ問題なのがそれ自体にストレージ(データ貯蔵装置)を有していない点である。
USBなどで技術的に拡張可能ではあるが、標準でないのは痛いところだ。

この夢のマシンは来年度中に国内での発売、引き続き2000年秋には海外での展開を目標に準備を進めているそうだ。

ここ一、二年がエレクトロニクス業界にとって大いなる転換期だと思う。
今はまだウィンテルの一人勝ちであるが、この時代もそう遠くない日に崩れ去るだろう。

 

またソニーは99年度の企業改革についても以下のように発表している。

 報道資料画像

ここで分かるように、SCEはエンタテインメント事業ではなくエレクトロニクス事業に属しており、しかもその中核として位置付けられている。

つまりSCEを実質上の100%子会社にしたと強調し(これはグループ子会社であるソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)がSCEの親会社であり、このSMEを2000年1月1日をメドに100%子会社化することからの発言である)カンパニー再編の中でも目玉として取り上げていることである。
ソニーグループ全体にとって最重要の市場の1つとして、SCEを位置づけたことになるのだ。

最初は実験的な(つまりこけても仕方ないと位置付けていた)会社であったのだろうSCE。
ソニーの財力に任せたお遊びが、ここにきて功を奏した形だと捉えるべきだと思う。
基本的にソニー本体はTVゲームという分野をエレクトロニクスの一環としか考えていない。
勿論それは世界頂点を目指すソニー自身にとっては明瞭な判断である。

このような意味で今回お遊び心であったSCEが一つ脱皮を図ったわけで、それに付随してこれからのTVゲーム業界というのも一つの脱皮が必要になってくるだろう。
そこにあるのは技術に物を言わせてきた時代ではなく、もっと違った次元であるに違いない。

何にせよ、楽しくなってきたことには間違いない。

このマシンは「買い」である。


<参考>

次世代プレイステーションのサンプル画像
※クリックすると大きな画像が表示されます

PS2_1

画面は開発中のもの
(C)NAMCO LTD.ALL RIGHTS RESERVED

PS2_2

画面は開発中のもの
(C)Sony Computer Entertainment Inc.

<Links>

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