任天堂の大いなる挑戦
〜ドルフィンよりも怖い64DD〜

1999/6/13 @632(23:11)

 

1999年6月11日、任天堂より衝撃的な発表が行われた。
それは先日行われた新世代TVゲーム機ドルフィン(コードネーム)の続報ではなく、 しかしながらそれを凌ぐインパクトのあるものだった。
64DD(NINTENDO64専用ディスクドライブ)を使ったネットワーク事業の開始である。
まずは正式発表された事項をまとめてみよう。

 

A)リクルートと任天堂は、「通信」「リライタブル(書き換え蓄積が可能)」という機能を保有しているNINTENDO64(以下N64)と64DD(今回新発売)を利用し、TVモニターと家庭用ゲーム機を使用した会員制ネットワーク事業「エンターネットサービス(仮称)」を行う合弁会社を設立し、1999年12月1日からサービスを開始する。

B)新合弁会社の出資比率は任天堂50%・リクルート50%であり、64DDを利用したエンターネットサービス(仮称)に関する全て事業の運営を事業目的とする。

C)エンターネットサービスは会員限定サービスとし、

1)64DDの機能を利用したゲームの販売とサービスの提供
2)電子出版フォーマット(EPS(ElectricPublishingStandard))を利用したデジタル新聞及びデジタルマガジンの発行
3)ユーザーが自分独自のオリジナル作品をアーティストに代わって簡単に創作出来るデジタルコンテンツ編集ツール(メーカーシリーズ)の提供
4)ブラウジング・メールサービスの提供
5)音楽データ配信サービスの提供
6)ゲームプログラム配信サービスの提供

をサービス内容とする。

D)利用料金は

イニシャルコストを入会費+スタータキット購入費(64DD、通信カートリッジ、ユーティリティディスク、増設メモリ)
ランニングコストを月会費とする(全料金未定)。

 

64DD

商品名 64DD
メディア 磁気ディスク 両面磁気記録
フォーマット容量約64MB
(うちリライタブル約最大38MB)
データ転送レート 約1.0MB/秒(最大)
シークタイム 平均75mS(TYP)
フルストローク135mS(TYP)
モーター起動時間 1.9秒以下
その他 エラー訂正機能
時計機能内蔵
メモリー拡張パック同梱
(36Mbit RAMBUS DRAM)
サイズ(mm) ドライブ
260×190×78.7
ディスク
101×103×10.2
重量 ドライブ 1.6kg
ディスク 4.3g

 

まず任天堂が「TVモニターと家庭用ゲーム機」という基本概念を崩していないところに注目したい。
ソニーやセガがTVゲームを超えたマシンをターゲットにしているのに対し、これは大きな特徴である。
そして今回最大の注目点はエンターネット(エンターテインメント・ネットワーク)と言う絶妙なネーミングで表された、そのシステムである。
これはインターネットではない。飽くまで有料によるクローズド(閉鎖的)なネットワークである。
しかもこの全サービスはリクルートとの折半により設立される新会社によって行われる。
つまり日本だけのサービスでもあるのだ(※1)。
当初ゲーム性からの必要に迫られ製造された64DD(N64の補完としての付属品)が、 ここにきて一つの大きなアイデンティティを手に入れたと言ってもよい。

  報道資料画像

今回のサービスは確かにインターネット接続も視野には含んでいるが、ドリームキャスト(以下DC)とは異なりそれがメインではない。
その目的は飽くまでクローズドなネットの構築であり、その際に取り交わされるデータの保存と言う意味で64DDが存在する。

そう、つまり家にいながらゲームソフトを購入することが出来るのである。
これは今までにありえなかった画期的な進化と言っていい。

それらを踏まえ、ここでは今回の発表の核ともなる重要な点に触れたい。
それはネットワークを「非同時性」の下に扱うという視点である。

DCなどで注目されるゲームとネットの融合とは、例えば格闘ゲームの同時対戦などのように
いつも「同時性」をもって語られてきた。
ネットに繋がっているその場でのデータの直接交換を意識しがちであった。
そもそもインターネットが突出してきた理由が、時空間の障壁解除であるからと考えれば、それも致し方ない。

だが日本では「同時性」を売りにしたゲームを作りにくいのも事実である。
もちろんディアブロやウルティマオンラインなどの同時性を売り物にした秀作ゲームはたくさんあるし、その可能性を否定するわけでもない(むしろ期待すら持っている)。
しかし現状の日本の電話回線事情を考えると、金銭面の問題から長時間接続は深夜に限られてしまい(※2)、従って対象は非常に限られたユーザ(=高年齢層を主体としたコアユーザ)に限られてしまう。
アメリカのような常時接続を可能とするインフラが整えばまた話は別だが、それは今すぐには無理である(もちろん将来的に有望ではあるが)。

そこで「非同時」の視点である。
あえてネットを「非同時」前提で使ってみようという視点である。
何もインターネットのような理屈をゲームに当てはめる必然はないのだ。

64DDのような大容量保存装置があれば、例えばネットに3分繋ぐだけで全データの蓄積が可能である。
つまり本体側のゲームプログラムごと変えてしまうという荒業が出来るのだ。
しかも一度データを受け取ればそれは永久に64DDによって保存される。
例えば野球ゲームで月に一度、最新の選手データに更新することが出来たりする。
月に一度、専用番号に3分間だけ接続すればよい。
同時対戦による長時間接続に比べ、料金もそれほどかからないだろう。

たったこれだけでも新しいゲームの進化が期待出来るではないか。
何も同時性だけがゲームとネットの融合ではないのである。
というより、むしろ元来TVゲームというのは同時に繋がらないからこそ発展してきた面もある。
ドラクエで自分の分身たる勇者がゲーム世界にたくさんいたとしたら、きっと面白くはないだろう。

ともかく今まで誰も実現してこなかった「非同時」の視点に、任天堂が大真面目に注目したというところに今回の発表の重みがある。

なお付け加えると、「同時性」に関してもクローズドであるネットワークはアドバンテージを有する。
例えばオープンなネットであるインターネットの場合、ネット混雑というオープンネット特有のインフラ上の制限がある。
いわんや深夜接続となればネットの混雑が必然となり、「同時性」の利便を失うこととなる。
ディアブロなどのRPGなどはまだしも、格闘ゲームのインターネット同時対戦は膨大なデータ交換が必要な為、混雑によるデータ欠落が致命的となるのだ。
しかし全くのクローズドネットであれば、このような「混雑」の心配がなくなる。
すなわちクローズドネットはある種専用のサーバであるから、目的だけの処理に全力をあげられる。

今回のエンターネットサービスはその「同時対戦」もサポートする様であるが、私はそこに目をつけるほど愚かなことは無いと思う。
何度も言うように私は「非同時性」の可能性こそ、今回の最大の売りであると確信している。

またリクルートと手を組んだというところにも注目点だろう。
つまりゲームだけではなくデジタル新聞やデジタルマガジンと称するあらゆる情報端末としての役割である。
これは明らかにソニー陣が目指す次世代プレイステーション(以下PS2)のSTB(※3)目的に対抗する措置であり、同時に高年齢層を対象にしたサービスであることの誇示でもあろう。
しかしこのような(先述の4)や5)のような)サービスは飽くまで付加的なものであり、任天堂が本来目指しているものではないと考えられる。

ここでエンターネットによって配布されるスタータキットを見てみよう。
このスタータキットには64DD本体を始め、増設メモリが含まれている。
つまり64DD用ゲームを制作する者は、最初から大容量8MBメモリを使って制作出来るということである。
これは新世代機に比べると少量ではあるが、現行機から比べれば大きなアドバンテージになる。
なおこの増設メモリはハイレゾパックとして単独発売されることも決定している。

そして最後に触れるべき特徴がある。
64DDは新しいゲームを専用ネットを通じて販売するだけでなく、既存ROMゲーム(つまり従来のN64ソフトはROMの為、拡張は出来ない)に対してもデータを追加出来るという利点を持っている。
遊び終わった「F-ZERO X」に新たなコースを随時追加したり、またエンターネットサービスと同時発売予定の64DDソフト「巨人のドシン1」というゲームは、エンディング後64DDの書き換えによって二つの違ったゲームに変化するという。
今まではいつかエンディングを迎えるしかなかったゲームという形態が、時間という概念を吹き飛ばして永久に進化しつづけることが出来るのだ。
これはスーパーファミコン(以下SFC)で今も行われているNINTENDO POWER(※4、以下NP)の完全形態とも言える。
経営的には無駄だと思われていたNPが実は大いなる実験の先行となっていたのだ。

なお余談ではあるがNPに関しては、ローソンのLoppiにGAME BOY(以下GB)用のスロットがあることからも分かるように、今後GBを中心とした展開も予想される。
これはポケモンなど、低年齢層ユーザに対して非常に有効な手段だと思う。
小学生あたりが放課後のコンビニで、ポケモンの書き換えをする姿などは容易に想像出来るだろう。
対照的に高年齢層=コア任天堂ユーザ(まぁ私のようなもの)には、64DDによるエンターネットを中心とした展開を期待出来る。
そしてポケモンスタジアムのように物理的に繋がるN64とGB。
何やら大きなコミュニケーションが生まれそうだ。

まとめると、今回の発表より読み取れる未来像というのはTVゲームを通したコミュニケートであり、それが飽くまでクローズドという点を通して実現しているところに重要性がある。
世間がインターネットという不特定多数のメディアに傾倒している中で、これは大きな意義があるだろう。
(このあたりは私がインターネットという立場からEVEという可能性を研究している背景と重なる)

いずれにせよ今回の発表は、ドルフィンだけではなくN64も大真面目に展開していくという決意の表れであり、PS2が下位互換で旧市場を引き継ごうとする中、別の角度からの斬新なアプローチであることには変わりない。
その意味においてはN64の10年現役宣言(※5)もあながち笑い話ではないと私は信じている。

 

<注>

※1 現にNOA(米国任天堂)社長は64DDの米国での発売は行わないことを明言している。
※2 インターネットではNTTによるテレホーダイというサービスを利用するユーザが多い。テレホーダイは深夜23:00〜8:00まで電話料金を固定性にするというサービス。
※3 セットトップボックス、家庭内電化製品を統括する機能をもつ機械。この座を巡って各社が覇権を争っている。ゲーム業界も無関係でない。これについては他で詳しく論ずる。
※4 任天堂がローソンで行っているSFCソフトの書き換えサービス。過去の作品は勿論、新作も廉価にて書き換えしている。
※5 著者はN64及び64DDの発表当初からそのスペック・理念の高さを評価しており、PS全盛の世の中で、N64は10年現役で使えると主張を繰り返している。

<Links>

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